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責め絵とは?挿絵画家・伊藤晴雨の「緊縛」「責め絵」の魅力に迫る

更新日: 2021年02月26日

緊縛される女性

責め絵とは乱れた姿の女性が柱に吊り下げられて痛めつけられたり、縄できつく縛られている様を描いたものです。
SM好きの方、また女性を縄で縛るということに興味がある方なら一度は目にしたことがあるかもしれないですね。

この責め絵の第一人者とも呼べるのが伊藤晴雨。彼の描く責め絵がなぜ人々を魅了し今でも根強い人気があるのか、紐解いていきましょう。

伊藤晴雨という人物

責め絵の天才は幼少期から歪んだ性癖を持っていた

伊藤晴雨(いとう・せいう 1882-1961)。
東京都に生まれた晴雨は、小さい頃から絵が得意でありわずか8歳という幼さで絵師、野沢提雨に弟子入りをしています。
しかも驚くべきことに、9歳の頃には折檻のシーンや女性の髪に対する強い執着を絵で表現していたそう。この時には既に責め絵に繋がる思想をお持ちだったんですね。

女性に対する暴力的な表現を好んだり、どの作品も女性の象徴である髪の表現にこだわりを持っていることからして、女性そのものに対するコンプレックスのようなものがあったのでしょうか。
しかし晴雨が責めるということに興味を持ち始めたのには、母親の影響があるそうです。
幼い晴雨に責め場のある演劇を見させたり、物語を語ったりしていたそうなので、母親の趣味も影響を与えたのでしょう。

包茎手術、そして長年の童貞生活から脱した先にあったもの

ウィキペディアによると、彼は包茎だった為長く童貞だったそうですが、27歳で手術を受け、その後結婚をしています。しかし長い童貞生活の中で膨らんだ女性に対する理想が高すぎたのか、結婚後は本物の女性を知り落胆していたとの記録もあります。

その頃には挿絵画家や芝居小屋の看板絵師として活躍し、収入のほとんどは遊びに費やしていたとのことで、余程の遊び人か、はたまた責め絵を好むなどかなり怖い人相をしているのだろうと思いがちですが、ご本人の写真を見ると驚くほど穏やかなお顔をされています。
目を細めてくしゃっと笑う顔は、本当にこの人が責め絵を描いていたの?と思うほど優しさが感じられます。そういったギャップも、伊藤晴雨の作品が愛される要因かもしれません。

モデルとなった女性の波瀾万丈な人生

3人の有名画家のモデルとなったお葉

伊藤晴雨の作品には何人かモデルが存在しますが、そのひとりが佐々木カネヨさん、別名お葉。絵に詳しい方ならご存知かもしれませんが、この女性はかの有名な竹下夢二の作品「黒船屋」のモデルにもなった女性です。伊藤晴雨や竹下夢二のモデルを務める前は藤島武二のモデルもしていたというのだから驚きです。

なぜそんな大物画家たちのモデルを次々に努めたのか、と不思議に思いますが、彼女はれっきとしたモデルなんです。
意外なことに大正時代には既にモデル紹介所というものが存在し、彼女はそこにスカウトされて東京美術学校のモデルとなりました。
しかも、奔放な性格で伊藤晴雨の愛人を経た後は竹下夢二の愛人にもなり、その後他の男性とも結婚や離婚を繰り返すという、恋多き女性でした。

わずか12歳で責め絵のモデルに

それほどに多くの男性を惹きつけ、現代にも名を残す有名な画家二人のモデル、愛人となるなんて、どんな女性!?とそれだけでも興味をそそられますよね。
ご本人の写真を見る限り、失礼ながら現代で言う華やかな絶世の美女というわけではなさそうですが、素朴ながらも整ったパーツ、どこか悲しさをおびた目元が男性陣を夢中にさせたのでしょう。
化粧が濃いわけでもないのにその目線から感じられる色気。記録上では12歳という若さで責め絵のモデルとなった彼女なくして伊藤晴雨の作品は生まれなかったかもしれません。

また晴雨とお葉、この二人が愛人関係にあったことも、作品を見る上で様々な妄想が膨らみ生々しいエロさを生み出しています。

緊縛の先駆けとなった伊藤晴雨、その作品の魅力

伊藤晴雨が自分の妻や愛人をモデルにして縛って吊し上げたり、責める様子を絵に描いたことで、そこにエロを感じる者が集まりました。
まだ、SMなどのジャンルが普及していなかった大正、昭和の時代に伊藤晴雨の作品は特異なものでありつつも、確実にファンを増やしていったのです。

晴雨作品の特徴その1「髪」

そんな伊藤晴雨の作品に共通する特徴が、女性たちの髪の毛に動きがあることです。
ほとんどの作品で、女性の結われていた日本髪はかなり乱れていて、特に顔周りの毛がはらはらと顔にかかっています。
女性を痛めつけたり、縛ることにはエロさや魅力を感じない人でも、女性の髪が乱れていることにはいやらしさや色気を感じられる、という人もいるのではないでしょうか。
そのくらい、髪の動きを描くことは色気を表現する上で欠かせないものです。
この髪の乱れが表現されていることで、この女性がどんな風に乱暴されたのか、そこに至るまでの様子を考えてしまいます。

ただ縛られているだけではなく、そこにいやらしさやエロさを感じさせる品があるのは晴雨がこの緊縛という行為に長年執念を抱き、極めていたからかもしれません。

晴雨作品の特徴その2「肉感」

また注目していただきたいのは髪の動きだけではなく、描かれている女性の体型です。
スラっとしてぜい肉のない女性ではなく、絶妙に肉付きがよく丸みを帯びた女性ばかりです。縄で縛られている姿では、縄が食い込みムチムチとした身体がきつく締め付けられているのがよく分かります。

親しみやすい体型の女性を描くことで、「身近なあの人を縛ってみたらこんな風かもしれない」という妄想も膨らみますし、リアリティがあり美しすぎないのがかえってエロさを感じます。

女性たちの表情

髪、体型と注目しましたが、更に注目したいのが女性たちの表情です。
女性たちは皆縛られて、痛い思いをしているはずなのに不思議と泣き顔ではありません。身動きの取れない状況に困った顔をしつつも、どこか「まだいける」と挑発的にも見える表情は、ドS達の「気の強い女をよがらせたい」「女を自分のおもちゃにしたい」という性癖に火をつけるのかもしれません。

泣き叫んで嫌がる様子ではなく、じっと耐え忍んでいる様子を描くということに晴雨の責め絵に対する美学を感じます。

現代のクリエイターにも影響力を与える伊藤晴雨作品

責め絵、緊縛だけではなく、挿絵や幽霊画といった作品を多く残した伊藤晴雨。
ただのSM好きな変態おじさんと思われがちですが、単なる趣味や性癖ではとどまらず、その分野についての研究や記録に暮れた人生だったと言っても過言ではありません。現代で言う、研究家、専門家とも言えます。そんな晴雨が残した作品に美しさやアートを感じるファンも多くいます。

あのスタジオジブリのプロデューサーである鈴木敏夫さんも、展覧会を開くほど伊藤晴雨の幽霊画のファンの一人です。現代のアニメクリエイターにも影響を与えるほど、画家としての実力もありながら生涯に渡り女性を責めることに美学を感じていたことは、女性に対する憎しみや嫌悪か、それともただの歪んだ愛情表現なのか…。そういったことに思いを馳せることも晴雨の作品を見る上での魅力です。

非常に残念なことに、戦時中の空襲で晴雨の作品や貴重な資料の多くが損失してしまいました。しかしコレクターが所持していたものの画集などで、残された晴雨の作品を見ることは可能です。
また主人公はお葉でありますが、彼女を取り合った伊藤晴雨、竹下夢二の物語がベースとなった映画もあります。それほどにドラマチックで情熱的だった伊藤晴雨の人生。
SMや緊縛が好きな方はもちろんのこと、女性を乱したい、縛ってみたいという願望がある方はぜひ一度伊藤晴雨の作品をご覧になってみてください。今までは気づかなかった新しい世界を開くことができるかもしれませんよ。